弁護士髙橋正明のブログ-最新版

 ハムレットのセリフと抑止力の関係
今回は、戦争の抑止力について、文学の観点から考察したい。丁度、今、中断しているが、別稿「ハムレットのミステリー」で扱っている内容が参考になる。ハムレット第3幕第1場の台詞として、
To be or not to be, that is the question(B)
とある。河合祥一郎教授によると、この独白をめぐって、40例以上の日本語訳があって、百家争鳴の感を呈しているとある(NHKテレビテキスト ハムレット・シェイクスピア)。ハムレットの父デンマーク王が庭で昼寝していたとき、弟クロ-デイアスがひそかに忍び寄り、水銀の猛毒を王の耳に注いで殺害する。喪に服するいとまもなく、弟は、王のお妃(=ハムレットの母)と結婚して、王位に就いた。ハムレットは、「今の世の中はタガが外れている」と独白して、母親に対する不信感を露わにし、クロ-デイアスに対する復讐心に燃える。上記日本語訳の中で、字句の解釈はともかくとして、
(やる、やらぬ、それが問題だ)
(小津次郎 (「世界文学全集 十」)筑摩書房)
といった翻訳がもっとも直截的であると考えている。僕の仮説であるが、シェイクスピアは、当初、(B)の台詞ではなく、
 To take revenge or not to take、that is the question(A)
(復讐すべきか、否か、それが問題である)
といった構成を取っていたと推定している。これは(やる、やらぬ、それが問題だ)と同じ意味かと思う。ハムレットは恋人オフェーリアに逢う際に(B)台詞を告白するのであるが、クロ-デイアスは、ハムレットが、父の死因に不審を抱き、狂気を装っているのではないか、と不信を募らせている。そこで、物陰に隠れてハムレットの言動を観察する。もし、(A)の台詞が独白されたら、クロ-デイアスは、ハムレットの復讐の念を察知して、ハムレットの命運は尽きてしまう。こうした展開の中で、シェイクスピアは、作品の基本的テーマである(A)「台詞」の「復讐」とは表裏の関係にあって、復讐に対する相手方からの反撃によって、自分が被るであろう被害、つまりは、ハムレット自身の生か死かの問題を取りあげて(B)「台詞」の構成にしたものと推定している。人間は、相手に攻撃を加えることは比較的容易に造られている。しかし、相手からの反撃が予測される場合、今度は自己の生死の防衛本能が浮上して不安や焦燥感に駆られ攻撃自体を自制する。攻撃に内在する自制心(抑止力)が働くのである。ということは、相手に反撃力があれば、攻撃は自制され、なければ、容易に攻撃される。戦争の抑止力も同じ原理である。さて、ハムレットの(B)の台詞の意味について、付言しておきたい。河合祥一郎教授は、舞台での演劇的効果の観点から、人口に膾炙された(生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ)との言い回しを採用したと述べている。舞台でのインパクトを与える表現としては異論はない。昨今では、英国の本場では、背広を着た「ハムレット」が演出されている。しかしながら、一方、40余のさまざまな日本語訳があって混乱している事実も否めない。生か、死か、それが問題であるとの意味は、あたかも、人生の難問をして人間の理性で解決できるとの印象を与えている。この意味において違和感を免れない。シェイクスピアは劇作家であり、人の魂に訴える偉大な詩人である。恐らく、台詞(B)の前段の生か死かの二者択一の問いかけ(自問)=後段(that is the question)として構成したものと考えるべきであろう。後段の(the question)とは、「問題」の意味ではなく、「質問」の意味であり、前段=後段であって、後段は前段を強調したものに過ぎない。よって、(B)の台詞は、(神に対する・自己に対する)生か死かの二者択一の問いかけ(自問)を意味する。「人生とは何か」「神とは何か」といった未知なるものへの問いかけ(自問)は文学の生命線である。「ハムレット」の作品は、(B)の「自問」を契機として、(自答として)ハムレットの身辺に起こる偶然の出来事などを介して、自己の生死を凌駕する公の崇高なるものを自覚して、自分の生死を超越した心境(悟り)に達した過程が描かれているのである。従って、舞台での言い回しはともかく、(B)の台詞の後段の(それが問題である)との翻訳は誤訳であると考えている。
以上

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