相続について

弁護士高橋正明のブログ

平成12・9・7広島高等裁判所の判決

1 事の発端は、昭和21年8 頃、AH及びその家族は、旧満州から広島市に引き揚げ、戦後の混乱期の真っ只中、広島市議会議員をしていた兄AMから住居の世話を受けていたが、AMがAHの代理人として、売主MM(当時、18歳の未成年者であった)の親権者父母との交渉によって、同22年11月25日、広島市中区白島○○町○○番地の土地(本件土地は、当時、分筆前の旧本件土地と本件隣接土地とあって、いずれも約100坪の地積があった)を代金3万5000円で買受ける売買契約が成立した。これによりAMからAHの妻であるAT名義に本件登記が経由された。なお、本件不動産の名義がATであっても、真の所有者は、買主であるAH である。AHは、昭63・1・27死亡、AT及びAHとATの子ら数名が本件不動産を相続した。
平成8年になって、僕は、ATとAHとATの子ら数名から裁判を受任して、広島地裁に対して、原告らと被告らとの間において、原告らが本件土地の所有権を有する旨の確認と被告HSは、原告らに対して、鉄筋コンクリート造陸屋根2階建の建物を収去して本件土地を明け渡せという裁判を提起した。裁判の経過と共に、被告は、数名に増え、被告らは、ATと兄弟姉妹の関係があった。
ATは本訴提起後の平9・1・13に死亡したが、その生前に作成した被告ら宛の手紙(乙1、3の1及び2、4の1及び2)には、本件土地は被告らの所有とする趣旨が書いてあるとして、広島地裁は、請求を棄却した。原告らは広島高裁に控訴を提起したところ、本件土地の売主MM(当時、未成年者であった)が、千葉の鎌ケ谷に居住していることが判明した。早速、MMに面談して、同人と広島に行き、同人の証人尋問を行い、本件土地の売買契約締結の事実を立証した。          
上記ATが、生前に作成した手紙に関しては、同高裁の判決文では、「被控訴人らは、本件土地が、被控訴人らの所有の趣旨が記載されていると主張するが、これらの書面は、兄弟に宛てられた書状ということもあるが、論理性に欠け、この文言から明確な内容を読み取ることは困難であるのみならず、前記認定に照らすと不自然であり、甲16、18、24、35及び53に照らすと直ちに採用することはできない」と一蹴されている。
被控訴人らの反訴の提起によって、時効取得など合計7個の請求原因を提示して、本件所有権の帰趨を争ったため、審理は複雑を極めた。弁論の終結が、平12・3・2から半年近く経過した平12・9・7判決の言渡があった。控訴人ら勝訴、被控訴人らは最高裁に上告したが棄却された。
                         以上

計画分娩に際して発症した臍脱に対する医師の責任

1 医師の計画分娩の診療行為によって、予定日の一週間前、健康な母児に対し、所定のメトロを用いて産婦の子宮内に人為的操作を施し且つ陣痛誘発剤(プロスタルモンE錠)を併用した分娩誘発の過程において、臍帯脱出が発症、大病院に転送して帝切を行ったが、児は重篤な後遺障害を患い、植物人間とし10年余の生活を経て死亡した症例である。
訴訟の経緯は、一審の東地裁では、請求棄却、東高裁において、寺尾教授の鑑定尋問を経た後、裁判長から、3000万円を最低限度として、交渉によって示談額を確定する和解の勧告があった。代理人の立場から言えば、和解には賛成であったが、児の両親の立場は心情的に異なっていた。本件は法的に解明すべきだという気持が強く、和解の提案を拒否したのである。すると、担当裁判官らは新規の裁判官らに交代、新規に佐藤教授の鑑定尋問を実施、即、弁論終結して、和解の勧告とは真逆の請求棄却の判決を下したのである(以下、単に本件判決という)。最高裁に上告したが棄却された(平成7年(ネオ)第207号損害賠償請求事件)。
2 本件判決は、医師が、産婦から「年末年始に入る前に出産を済ませたいとの相談を受けた」と認定している。しかし、妊娠直後から医師による計画分娩についての教育を一切受けておらず、産婦が医師に対し自ら出産の時期を特定することはない。産婦は、子供を安全に産みたい一心から盲目的に医師の指示に従うのが通例であって、出産の時期を自ら特定するような知識も経験もない。本件誘発に使用されたバルーン(風船)が一体何なのか、その作用(機械的)及び副作用は何か、分娩の監視体制はどうか、副作用が発症して緊急事態にいたった場合の病院の態勢がどうかなどの点について一切知ることがなく、医師の指示に従い、病院に入院、分娩誘発の診療を受けた。仮に、バルーンの副作用によって、臍帯脱出の緊急事態が発生して、医師の病院では、帝切を実施する態勢にないことを知らされていたら、分娩誘発を受けることはなかった。
3 一般に、診療行為は、患者の疾患の治癒を目的とする「準委任」と考えられており、「請負」と異なり、医師に一定の結果を達成する義務を負わせるものではない。したがって、「診療行為の結果、疾病が治癒しなくても、また、死亡や身体的障害等の予期しない結果が発生したとても、医師が診療行為を行なうに際して要求される善管注意義務を怠った場合、債務不履行の責任を負担する(裁判実務大系17、医療過誤訴訟、根本 久編、Pl7)。
医師による患者の疾患の治癒を目的とするのが「診療行為」であるが、もし、医師の診療行為によって、健康な人を重大な危険に陥れたらそれは背理であり、「診療行為」に値しない。計画分娩における医師の責任は一般の診療行為(準委任)とは異なった考えが必要であって、計画分娩の場合、「診療契約上健全な児を出産させることを合意した請負の一種と解すべきであり、たとえ、「準委任」と解するとしてもそれは請負の性質を有した一種の無名契約と解すべきものである。もし、「請負」の性質を無視したら計画分娩は100%成立する契約ではない。例えば、防衛医大方式による、分娩誘発方式は、「誘発開始と同時に血管の確保をしておくこと、いかなる緊急事態発生にも直ちに対応できる態勢」が用意されているところ、大学病院と開業医との間では設備や技術の濃淡はあるにしても、医師としての注意義務は同一であり、万が一緊急事態=臍帯脱出に発展した場合でも、その緊急事態に対処できなければ、誰も医師に副作用の発症の可能性を有する用具を用いた計画分娩を委ねたりはしない。計画分娩は、「請負」の性質を有し、健全な母児に対する医師の人為的操作によって、重大な結果が招来した場合、不可抗力などの特段の事情があれば格別、医師は、健全な児を出産させる義務に違背した責任を免れないものと解すべきである。
4 本件判決は、一般の診療行為(準委任)の立場を貫き、臍脱は、児頭と骨盤との間の間隙(未固定、未嵌入―反屈位の症状を呈する)によって生ずるものであるが、(1)本件臍脱の原因は、「破水」によるものであると特定し、医師は蒸留水240mlの注入量に及んでいたが、メトロの取扱説明書では、注入量は、頭位の場合、注入量を150mlに限定すること、「注入量が多いと臍帯脱出や胎位変換が助長されます」と警告があるにも拘わらず、(2)「メトロの注入量を150ml以下にすべきであることが医学上の普遍的見解として定着していたものと認めることはできない」と認定し、(1)、(2)を前提として、(3)臍帯脱出によって、児の生命線である臍帯の圧迫が強力であるため児の血流が遮断され窒息状態となり、一刻を争ってその窒息状態を緩和し解除すべき緊急の医療上の処置(帝切などの急速遂娩)が要求されているにも拘わらず、(4)応援医師の到着を待たなければ手術を実施することはできなかったから、医師は、臍脱発見後即座に帝切を行う注意義務はなかった、或いは、(5)分娩誘発過程で臍脱が発生しても、本件では臍脱を予測すべき事情はなかったから、当日あらかじめ応援医師に連絡をしておくべき注意義務はなく、昭和大学付属病や関東労災病院などの設備の整った病院に転送し緊急事態に対応できる体制をとっておれば医師に責任はない」と判断したのである。詭弁を弄する内容であった。飛行機には二重三重の安全装置が働くようになっているが、人の生命を扱う医者の場合にはその必要性はないとい言わんばかりの判決であった。
上記(1)~(5)の産科学的所見については、以下に補完しましたので、興味のあるお方はお読み頂くと幸甚です。

交通事故

1、事例
信号機のある交差点において、被害者(X)が自転車走行による横断歩道中、左折車との交通事故。被害者(X)は、死亡。当時28歳。事故前、1か月間のアルバイト収入(月額13万5000円)があった。問題点。交差点における事故の過失割合。損害賠償額(遺失利益、慰謝料)の査定。本件は、約8000 万円の損害賠償請求の裁判を提起し、68000万円の裁判上の示談で解決した。
2、請求額―約8000万円の内訳
①逸失利益
                 41、960,000円  
  3,522,400×(1-0,3 )×17,017=41、960,000
       *3,522,400円-賃金センサス平13
(女性全年齢)
       *30%-生活費控除率
*17,017-ライプニッツ係数

②慰謝料
被害者本人          28,000,000円
両親             6,000,000円
    
③弁護士費用           5,000,000 円
3、裁判の提起と示談の経緯 
 裁判所の和解勧告があって、交渉し、被告側から順次、和解案が改訂され、最終的に、和解金6800万円で示談解決した。
第1回  和解提案
          37,570,075円
第2回 和解提案
          64,205,344円

第3回 最終和解案
68,000,000円 
事故状況・損害の状況・示談額の把握には、以下の書類が必要です。
交通事故証明書
事故状況を示す図面(道路状況、加害者・被害者の位置、事故の場所、日時、天候等)
診断書・後遺障害等級認定票
治療費明細書(入通院日数、治療費・通院費のメモなど)
事故前の収入を証明するもの(給料明細書、休業損害請求書、
源泉徴収票、確定申告の写しなど)
示談交渉に関する書類(相手方からの提出書類、示談交渉の過程を記したメモなど)
現場・物損の写真
加害者の任意保険加入の有無・種類
その他事故に関する書類
(差額ベッド代、付添日数、費用、修理費、家屋改修費、有給休暇日数、相手方加入保険内容のメモなど)
                               以上

遺言書について

遺言書について

一般に、よく利用される遺言書には、自筆証書遺言書と公正証書遺言書の二つがあります。自筆証書遺言書は、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自筆して押印します。公正証書遺言書は、証人2名が立会って、公証人が遺言者本人から遺言内容を聞き取り、これを遺言文書に纏めて、本人や証人に読み聞かせて作成します。これが民法上の作成方法です。公正証書遺言は法律の専門家が関与するので、高齢者などの遺言者能力が減退している人でも、少なくとも、真意によらない遺言をさせられる危険性は少ないと思われがちです。しかしながら、一方、公正証書遺言の作成には、遺言者本人ではなく、遺言によって利益を受けようとする受益者が―遺言者の身近にいる推定相続人の場合が多い―或いは、代理人を介して、公証人に遺言書の作成を依頼することが多く見受けられます。公証人は、その人から遺言の趣旨を事前に聞いて、遺言の内容を纏めて、それを遺言者に読み聞かせて遺言を作成する場合があります。この場合には、遺言者が自分の意思を明確に伝えられなかったり、受益者にいいくるめられたりして、真意に沿った遺言書が作成されているとは言い切れません。何故に遺言が尊重されるのかといえば、それは遺言者本人の真意が表明されているからであって、遺言者の真意が外部的要因(例えば、遺産の独占化など)によって影響を受けているとしたら、公正証書遺言であっても、無効と判断される可能性があります。

2 遺言無効確認訴訟

遺言書の作成に疑問がある場合、遺言によって利益を受ける相続人を相手にして、遺言無効の裁判を提起することができます。遺言無効確認の裁判は、消極的確認請求の一種として、遺言の無効を主張する人が原告となり、遺言の有効を主張する人が被告となります。この裁判の特質として、主張・立証責任の観点から、以下に、(ア)、(イ)と分類しておきます。裁判では、事実の存否がいずれとも判断できない真偽不明の事態が起こります。この場合、その主張・立証責任を負担する人の主張事実が認められず、敗訴の不利益を受けます。(ア) 民法は、遺言書の成立要件を定めていますが、自筆証書遺言の自筆性の問題やと公正証書遺言の口授(口頭で伝えること)の成立要件は、遺言が有効である主張する被告に主張・立証責任があります(最高裁判例)。その外、簡単な事例でいえば、自筆証書遺言の日付に関して、平成26年7月吉日は無効、同7月末日は有効、公正証書遺言では、立会・証人の一人が推定相続人の夫(又は妻)の場合、無効と判断されています。弁護士、或いは、信託銀行などの専門機関の担当者が、遺言の受益者(特定の推定相続人)の代理人として、公正証書遺言作成の証人となった場合、公正証書遺言は無効と解されます。これは証人の適格性の問題として、遺言の有効を主張する被告において証明責任があります。特に、もっとも争いになるのは、高齢者の場合、(イ)遺言者の遺言能力の問題があります。これは遺言の無効を主張する原告に主張・立証責任があります。
 
 

遺留分侵害額の算定表

遺言書の作成に疑問がある場合、遺言によって利益を受ける相続人を相手にして、遺言無効の裁判を提起することができます。遺言無効確認の裁判は、消極的確認請求の一種として、遺言の無効を主張する人が原告となり、遺言の有効を主張する人が被告となります。この裁判の特質として、主張・立証責任の観点から、以下に、(ア)、(イ)と分類しておきます。裁判では、事実の存否がいずれとも判断できない真偽不明の事態が起こります。この場合、その主張・立証責任を負担する人の主張事実が認められず、敗訴の不利益を受けます。(ア) 民法は、遺言書の成立要件を定めていますが、自筆証書遺言の自筆性の問題やと公正証書遺言の口授(口頭で伝えること)の成立要件は、遺言が有効である主張する被告に主張・立証責任があります(最高裁判例)。その外、簡単な事例でいえば、自筆証書遺言の日付に関して、平成26年7月吉日は無効、同7月末日は有効、公正証書遺言では、立会・証人の一人が推定相続人の夫(又は妻)の場合、無効と判断されています。弁護士、或いは、信託銀行などの専門機関の担当者が、遺言の受益者(特定の推定相続人)の代理人として、公正証書遺言作成の証人となった場合、公正証書遺言は無効と解されます。これは証人の適格性の問題として、遺言の有効を主張する被告において証明責任があります。特に、もっとも争いになるのは、高齢者の場合、(イ)遺言者の遺言能力の問題があります。これは遺言の無効を主張する原告に主張・立証責任があります。
 
 

ご相談の予約について

遺留分侵害額の算定表について以下に事例を掲載致します。
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3 遺留分減殺請求訴訟

遺留分侵害額の算定表について以下に事例を掲載致します。
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(2)裁判では、遺留分を請求する当事者を原告といい、遺留分の減殺請求を受ける側を被告といいます。遺留分の侵害額の計算は極めて厄介であって、もたもたしていると、裁判の長期化を招きます。相続財産(不動産・預貯金・負債)や生前に被相続人が妻や子らの相続人に対して贈与した財産(特別受益)などが計算の算入項目となります。特別受益(生前贈与)として、(ア)妻や子らの相続人に対する土地や現金などの生前贈与(30~40年前の土地の贈与でも、被相続人死亡時の実勢価格(時価)で計上されます)。(イ)被相続人の土地の上に相続人の一人が建物を建てて土地を無償で利用している場合、その賃料(更地書価格の15~30%)。しかし、建物の無償使用は認められない、(ウ)被相続人の生前の預貯金の取引履歴から判別する使途不明金。(ヱ)中小企業のオーナーが、後継者の特定の子(長男)に対する自社株の生前贈与や特定の子にだけ住宅取得資金の非課税枠を利用した生前贈与。(オ) 相続人以外の非相続人(例えば、孫・曾孫など)に対する生前贈与について、相続開始前の1年間にした贈与は含まれ、1年を超えてそれ以前にされた贈与については、遺留分権利者に損害を加える意図が認められる場合、同じく、特定の子の孫にのみ教育資金贈与信託を利用した教育資金の生前贈与(その孫に対する贈与がその親である特定の子に対する贈与と同視しうる場合)、(カ)生命保険において、契約者・被保険者=被相続人、保険金受取人=特定の相続人の場合、原則、保険金受取人の固有財産。しかしながら、その特定の相続人(受取人)と他の共同相続人との間において著しい不公平感が生じて是認できない特段の事情が存する場合、例外として、特別受益に準じて扱うことが可能と解されています。(キ) 被告の対応は、遺言者に持ち戻し免除の意思表示があったと主張して争います。(オ)(カ)の場合は、その事実を争うことになるでしょう。 
(3) 原告は、遺留分侵害額の算定表(判例時報1635号に掲載の算定表参照)を作成して、「請求」(請求の趣旨)を特定する必要があるので、不動産が多岐にわたる場合、不動産鑑定書(簡易)を徴しておくと便宜です。裁判所によっては、遺留分算定の基礎となる財産に関して、物件の特定、原告・被告らの主張・額・証拠・認否の要点を摘記した「遺留分一覧表目録」の作成を要請する場合があります。相続上の争いは骨肉の争いに発展しかねないので、適宜、裁判所の和解勧試を容れて、速やかに解決するのが最善の方法と考えています。